高校時代から付き合っていた恋人・加地君が自分の知らない女の子と旅先の事故で死んでから、1年半。奈緒子は、加地の親友だった巧と新しい恋をし、ようやく「日常」を取り戻しつつあった。ただひとつ、玄関でしか眠れなくなってしまったことを除いては――。
深い悲しみの後に訪れる静かな愛と赦しの物語。
少し前に読んだ『猫泥棒と木曜日のキッチン』(
感想)より、主人公の年齢がちょっぴり高く、
作品の中身も「大人の読者向けに書かれたラノベ」って感じ。
大好きで大切な恋人加地を亡くした喪失感と深い哀しみを引きずったまま、
なかなか前進できず、悶々とした日々を過ごしている奈緒子の日常と、
奈緒子の現恋人で、加地の友人だった巧の日常を交互に綴って、
喪失感といかに折り合いをつけて、これから先、生きていったらいいのか。
自力でその方法を見つけて、ほんの少し心が回復する様子を、
淡々と、でも丁寧に優しく描き出した作品。
残された人間は、これから先も生きていかなければいけないのだから、
いつまでも亡き人への思いにぐじぐじ思い煩っていてはダメ。
気持ちを切り替えて、自分の人生を歩いていかなければいけない。
あたり前といえばあたり前のことなんだけど、それを、
どこにでもある日常の中で描き出すのが抜群に巧いのだ、この作家、橋本紡は。
特別なことなんてまるでなくて、ただごくありふれた単調で平板な日常を
切り取って描き出した作品なのに、最後まで一気に読ませてしまう力があります。