「猫舌男爵」とは、棘のある舌を持った残虐冷酷な男爵が
清純な乙女を苛む物語…?
爆笑、幻惑、そして戦慄。小説の無限の可能性を示す、瞠目すべき作品世界。
表題作ほか4編を収録した短編集。 作家皆川博子にはさまざまな側面があるけれど、
中でも、幻想&耽美小説的側面が前面に出ているような作品集だ。
読んでいる内に、現実とも夢想ともつかない不思議な世界へと、
たちまち惹き込まれてしまう。
毒を含みながらも甘美な世界に、幻惑される。うっとり(*^^*)。
水葬楽容器の中の養水に漂う人の姿に倉橋由美子『ポポイ』を想像した。
少女の目に映る世界は静謐で美しい。
だけどそれは少女の存在自体が在るのにないとされ、隔離し隠蔽されているが故。
BGMならぬBGPとして仏蘭西詩が随所に挿しいれられているのだが、
少女の行く末を暗示しているかのようで、なんとも物悲しい。
猫舌男爵「猫舌なのが唯一の欠点な男爵のコミカルな顛末を描いた本なの?」
そう思いながら読んだのがだが、どうしてどうして(笑)。
おそらく東欧に住む青年やん・じぇろむすきが、
偶然古本屋で日本人作家ハリガヴォ・ナミコの『猫舌男爵』という短編集を入手し
翻訳して出版した事から物語は始まる。
彼の「訳者あとがき」があちこちに投げかけた波紋を、
コミカルに(少しの毒入りで)描いた短編集。
いやいや。異文化コミュニケーションは大変だ(笑)。
噛み合わずちぐはぐな様子に、ついつい笑みがこぼれてしまう(笑)。
そもそも発端となった針ヶ尾奈美子の作品集『猫舌男爵』が是非読んでみたいッ!!
(「皆川博子」のアナグラムと見た/笑)
あ、山田風太郎の著作に
「THE NOTEBOOK OF MILKY-WAY¥¥¥'S NIMPO」ってあるんでしょうか???
オムレツ少年の儀式理不尽で醜い大人の世界を目の当たりにする内に、少しづつ少年は変わっていく。
少年から大人へ。
押し付けられたモノへの反発、そして少年が自らの意志でとった行動とは。。。
束縛されず自由であることには、それなりの代価が必要なんですねえ。
睡蓮「あまりにも近くに居すぎたせいで、結局は偉大なる芸術家によって
潰され、そしれ狂気に陥ってしまった才能の悲劇」の物語。
時間を遡るうちに、次第に明らかになる事実。
人の尊厳すら剥ぎ取られた老女に、かつてあった輝かしい栄光の日々が
次第に鮮やかに蘇ってくる。
そのさまは、まるで色が失われた世界に、徐々に色が戻ってくるかのよう。その驚き。
作者は湯原かの子の評伝『カミーユ・クローデル』 に示唆を得て執筆したのだとか。
なるほど。忘れずに読んでみようと思う。チェックチェック!!
読み終わってからも、心にくっきり青い太陽、そして青い睡蓮の絵が残って離れない。
太陽馬現在、過去、そして物語の中の世界が微妙に絡み合っていて、その境目が曖昧だ。
戦火の中が現実、なのにどこか非現実めいた不思議な空気が漂っている。
殺戮の無意味さ、空虚さを誰もが知っていながら、
過去も、そして現在でさえも殺戮は終わらない。
それはあたかも「太陽馬」を手に入れんとするかのよう。
まるで「太陽馬」に操られているかのようだ。
読み終わって、皆川博子が構築した甘美な世界に思わずクラクラ。
舌に残るほろ苦さにまで甘美に思えるほどだ。
幻想&耽美小説好きな方には、ぜひともオススメしたい作品集かと。
皆川博子『猫舌男爵』講談社