芥川賞受賞作で「パーク・ライフ」と「flowers」の中編2編を収録した作品集。
表題作は『東京湾景』に比べたら、少し色彩が淡い感じがするけれど、
「吉田修一って小説が上手いよなあ…」と改めて、しみじみ唸ったことよ。
パーク・ライフ
多少の起伏はあるものの、ごく普通(と言っていい範疇)の生活を送っている
青年の日常を切り取って見せられたような、地味な印象を受ける作品。
なんだか、いつクライマックスが来るんだろうとじれじれさせられながら、
単調に淡々と続く日常生活を撮った映画を観ているような感じがした。
ただ、公園で会うスタバ女との関係などに、イマドキの人間関係が
投影されていて興味深い。
親しくはなるものの、ある一定のライン以上は踏み込ませない見せない距離感。
距離感を保ったまま人付き合いをする青年の、孤独と思わせない孤独。
そんなところが、地味な印象を与える作品だけど、
好ましいと思えるところなのかもしれない。
何一つ、提示された問題が解決する事なく唐突に終わるラストには
正直戸惑ったけれど、
これは“小説が終わった後も(読者の知らないところで)彼の生活は
何一つ変わることなく続いていく”と、仄めかしているんだろうなあ。結構好きかも。
(公園であったスタバ女とのその後は?宇田川夫妻のその後は?気になる気になる…)
flowers
こっちのが色彩が濃いかなあ。
「パーク・ライフ」が目立って個性的ではない人物が登場する物語だったのに対し、
普通の顔の下に異常をひた隠す青年、“月に一度の楽しみ”ホテルを泊まり歩く妻
などなど。
狂気とは言えないまでも「普通」から逸脱しそうな危うい人々を配し、
ある日常を描いた作品。
元旦のキャラが特に目を引く。彼の持つ「静」と「動」の二面性。
特に印象的だったのが、クライマックスとも言うべき、
シャワー室での元旦へのリンチシーン。
まるで映画のワンシーン(それもスローモーションで)でも観ているかのような、
生々しさが排除された静謐さえ感じる暴力シーンに、思わず心ぐらぐら。
うん。「パーク・ライフ」もいいけど「flowers」も好き好き。
なんだか、作品集が刊行順を逆さに読んでる気がする。
素直に刊行順に読めば良かった(涙)。
誰もが絶賛のうずしおの『パレード』も、早く読みたいなあ。