水の繭
心にぽっかり穴を抱えたとうこのもとに、ある日ひょっこり転がりこんできた従妹の瑠璃。個性溢れる人たちとのめぐりあいで、次第にかじかんだ気持ちがほころんでいく、少女とひと夏の物語。
2年半ほど前に一度読んでいるものの、どんな物語だったのか
綺麗さっぱり忘却の彼方だった私(苦笑)。
涼しげなタイトルが時期的にちょうどよいタイミングかなと、借りてくる。
と読み始めたら、物語の舞台となるのは、8月に入ったちょうどこの時期!!
“少女のひと夏の物語”って大好物です(*^^*)。
1年前の夏に、二人暮ししていた父親を亡くしたとうこが主人公。
10年前の両親の離婚で双子の兄と引き離された深い喪失感も抱えているから、
追い討ちをかけるような父親の死に、人生に喪失感しか感じられない。
失意のどん底。夏が近づくと心が凍りつき、想いまで澱んでそこから動けない。
1章で、そんな彼女の凍りついた心を溶かしてくれるのが、
全身生命力の固まりみたいな2つ年下の従妹の瑠璃。金髪(笑)。
親戚中の問題児なんだけど、彼女のキャラクタがものすごくいいのよね。
とうこと正反対の性格で、自分の気持ちに正直で前向き。
親と意見が対立しても、決して意志を曲げない。平気で家出しちゃう(笑)。
瑠璃との同居が、ゆうるりととうこの気持ちを変化させていくんだけど、
その様子は決して押し付けがましくなくて、筋が通っている。
まるでとうこよりも大人みたい(笑)。
失意から、自分の内に閉じこもっていたとうこが、次第に外へと目を向け、
人生を前向きに生きていこうとする物語ではあるけれど、
人と人との出会いが、ある時には苦しみをもたらしさえするけれど、
またある時には救いにもなるのだと、優しく教えてくれる物語でもある。
2章は、実質的にも精神的にも、遠く離れていたとうこと陸が和解する物語。
とうこの父親に救われた瑠璃はとうこを救い、とうこは双子の兄・陸を救い、
そしてその陸は遊子さんを救う。巡り合う縁の不思議さ。
クライマックスの大雨が、誰もが心に抱えていた澱みまでも押し流し、
季節が変わる予感が、止まっていた時がゆるやかに動き出す予感と重なって
とても後味の良い、爽やかな読了感です。
ちょっと初期の吉本ばななや、少女漫画を思い出させるのが難点かな?
(吉野朔実さんあたりのファンと見た!)
でも特色である“透明で瑞々しい文章”が好みなので、
これからも大島作品を読んでいくつもりです。