恋は自由を奪うけれど、恋しい人のいない世界は住みづらい。
叶わぬ恋におちてしまった仕立て屋・テルミーの切なくも前向きな姿を描いた
「お縫い子テルミー」と「ABARE・DAICO」の2作を収録。
お縫い子テルミー
第129回芥川賞候補作。物語の冒頭、
「流しの仕立て屋をはじめて三ヵ月がたつ」の一文にいきなり目が釘付け。
一気に、どこか不思議な雰囲気がただよう物語世界に、惹きこまれてしまった。
照美ことテルミーが恋した相手は「歌が恋人」と公言する女装の歌姫シナイちゃん。
テルミーの叶わぬ恋の顛末と、恋しい想いを内に秘め、前向きに歩みだす姿を
温かなまなざしで、優しく描いている。
とにかく「流しのお縫い子」という設定が奇抜だ。魅力的だし、とてもソソられる。
南の島から上京してきた東京で、「服を縫う」ことが天職だとして受け入れ、
運命のおもむくまま自由に生きるテルミーがとってもチャーミング。
テルミーの恋した相手は、“歌うことが運命”歌しかないシナイちゃんだった。
たとえ初めての恋が叶わなくても、どこかでシナイちゃんと繋がっていることを信じ、
顔を上げ、誰からも束縛されず、前向きに自分の運命を歩んでいく。。。
そんなテルミーの姿はとても潔く、凛々しく、そして美しい。
私はふたつバックを持っている。ひとつには生活道具、
もうひとつには、裁縫道具が入っている。
と言い切るテルミーに、たまらなく
「頑張れ〜!!」熱いエールを送って応援したくなる。
読み終えて、爽やかな風を感じるようだ。とってもオススメ♪
ABARE・DAICO
訳ありの家庭環境ゆえなのか、妙にしっかりして所帯じみてる小松誠二は小学5年。
こんな誠二の身の上に起こったひと夏の、とんでもない事件の顛末を
ユーモラスに描いたお話である。
妙に大人びているようで、だけど年相応の子供っぽさを残す誠二。
誠二のナイーブさ、複雑な胸の内を、丁寧に描いているところに、とても惹かれる。
とんでもない事件のおかげで、家族にちょっぴり変化が訪れたし、
親友オッチンとの友情も、より深くゆるぎないものとなったし(題名参照せよ^^)
そしてちょっぴり誠二も大人になった。
ラスト、それまでどこか色褪せていたような世界が一変し、
強烈に夏を主張し始める様子が、とてもいい。
読み終わって、心がぽっと温かくなるようだ♪
栗田作品を読むのは『ハミザベス』に続いて、これで二作目。
彼女の作品が持つとぼけてるようなおかしみは、読んでいるうちにクセになる。
そして読了後に、なぜか心のどこかに引っかかるモノが残るのだ。
芥川賞は逃したけど、独特の味のある作品をこれからも発表していって欲しい。
栗田作品、今後も要チェック!!