都市伝説セピア
朱川 湊人
都市伝説に憑かれ、自らその主人公になろうとする男の狂気を描く、オール読物推理小説新人賞受賞作「フクロウ男」ほか、病む心の妖しさ哀しさを描くホラー短篇全5篇を収録。
奥付けのプロフィールによると、この短編集に収録されている「フクロウ男」で
2002年に第41回オール讀物推理小説新人賞を受賞しその翌年、
第10回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞して、先々月に角川ホラー文庫から
『白い部屋で月の歌を』が刊行されたとか。
華々しい経歴なんだ。ふーん。で、この単行本が初の著作集なのだとか。
短編を5編収録した短編集。
いずれも“思い出に呼ばれる物語”と言いたくなるような
“過去への思いに強く捕われてしまった人々の姿”を優しく切なく描いている。
そう、どの作品も「恐ろしさ」を感じつつ、同時に「哀しさ」「切なさ」の感情も
揺さぶられるのだ。
そんなところが、ちょっと面白いです。うふふ。
アイスマン
某作家の某作品を思い出してしまった。
初恋めいた淡い感情を抱くようになる少女との出会い、そして悲しい突然の別離。
歳月を経て、あの少女と再会し、一気に過去の時へと心を飛ばしてしまう男。
切なさを感じつつも同時に、作品全体を覆う得体の知れない不気味さに
心くすぐられます。ぐふふ。
昨日公園
これは「世にも奇妙な物語」ですね。
同様のネタを使った既出の作品がいくらでもありそうだけど、
このラストにはやられました。ぐすん。
「大切な人の命を救いたい」何度も何度も繰り返し描かれるその思いに、
素直に胸打たれる作品かと。
フクロウ男
「フクロウ男の告白」という形式で、ネットを使い意図的に生み出された
「フクロウ男」の都市伝説が、次第に伝播していく様子を執拗に描いていて、
それをとても興味深く読んだ。
「作者自身乱歩が好きだし、意識的に買いてるな」がひしひしと伝わってくるし、
“都市伝説”と“乱歩的怪奇趣味”の混ざり具合がいい感じなのだ。
乱歩好きの方は、要チェックかも♪
死者恋
これもまた「告白」の形式で綴られる、
乱歩の「ひとでなしの恋」へのオマージュのような作品。
自殺した美貌の青年の本を読み、彼をいつしか理想の男性化し、
恋焦がれるようになった少女が二人。
「今はもうこの世にはいない彼」への思いを、どうしたらいいのか。
少女から女性へと成長するに従い、彼への思いもまた変容しながら
エスカレートしていって。。。
空気が突然変わったかのような衝撃のラストに
「二人がそれぞれの方法で、彼へ迫っていたんだなあ」と
背筋をぞわぞわさせながら、そう思ったのは私。
女性の思い込みは恐ろしい、、、。
月の石
これも「世にも奇妙な物語」ですね。
現実と、セピア色めいたノスタルジィの混じり加減が切なく、そして優しい。
「どうなるんだろうか?」ビクビクしていたものの、ラストに救われほっと安心。
ホロ苦さを感じつつも、読了感はいい。
乱歩ちっくな妖しい雰囲気が漂う怪奇小説と、鼻の奥がツーンとするような
郷愁を感じる小説の二つの味が味わえる短編集かと。
朱川さん、今後もチェックチェック!!
ただ、この短編集の題名『都市伝説セピア』はイマイチ。
内容を反映してないよう!!