2005.09.07 Wednesday
生田紗代『まぼろし』
まぼろし | |
生田 紗代 新潮社 2005-07-21売り上げランキング : 110,664Amazonで詳しく見る by G-Tools |
母とはもう、8年近く会っていない。なのに、なぜ今になって戻りたいなんて−。逃れることのできない母娘の確執を描く表題作他、実家に戻り高校生の妹と過ごすあてどない時を描く「十八階ビジョン」を収録。『新潮』掲載。
第40回文藝賞受賞者である生田紗代の最新刊。
この人なりのカラーが出てきたようで好印象(*^^*)。
同時収録の「十八階ビジョン」が、4ヶ月で会社を辞め、
実家に出戻ってきた主人公が、両親が旅行で不在の5日間、
大学受験を控えた超マイペースの妹と過ごす日々を綴ったお話で
「まさか『タイム・カプセル』のその後じゃないでしょうね!」
思わずぎょっとしちゃったのは私です(当然だけど、違った^^;)。
立ち竦んでしまったせいで、自分一人だけ取り残された事への
戸惑いと焦燥感、そして居心地の悪さを感じる主人公。
だらだらと過ごす鬱屈した日々の中で、少しづつ自身を受け入れて肯定し、
また歩み出す日が来るだろうという確かな予感を匂わせるラストが好き。
しみじみと好き(*^^*)。
ゆっくりとしか走れないんなら、ゆっくり走ればいいのよ!
(そうそう、友達がいなくてもぜんぜんOK。
超マイペースな妹の存在がとてもいいのだ、この作品。
作品全体の空気を和ませる緩衝剤の役割を果たしているのかも♪)
作者と同年代、20代前半のまだ大人になりきれない少女の揺れ動く内面を、
上手に掬い上げて描いているから、同年代により共感されるんじゃないかしら?
退職を決めたエピソードに「そう!そうなのよ!」痛いほど共感したのは私です。
でも、、、表題作「まぼろし」のが断然良かった。
デヴュー作である「オアシス」を深化させたような作品。
自分を鬱憤晴らしのゴミ箱にした挙句、離婚して家を出ていった母親が
父親と8年ぶりに復縁しようとしている、、、。
その知らせに激しく動揺する娘の内面を、過去の回想と現在とを絡めて
痛いほど繊細に描き出している。
“母親と娘の関係”が、生田さんが描きたいテーマなのかしら。
もの凄く筆が冴えていて、とてもいい。胸にずしりと沈み込んでくるかのよう。
ただただ憎悪の対象で理解不能な存在でしかなかった母親。
そんな母親へ寄せる想いが、ゆるゆると変容して行って、ついにラストで、、、
この辺りの描写に、がしっと心臓を鷲づかみにされたのは私。
こんな風にタイトルである「まぼろし」の意味へと繋がっているなんて!!
母親との関係に鬱屈したものを抱える、あるいは抱えていた女性が読んだら、
痛いほど共感できるし、また救われる物語でしょう。
今後も生田紗代は要チェックですな。
豊島ミホもそうだけど、まだまだ化けそうだ。