袋小路の男
「あなた」とは指一本触れないままの12年間、袋小路に住む男にひたすら片思いを続ける女を描いた究極の純愛小説。川端康成文学賞受賞の表題作を含む3篇を収録した短篇集。『群像』掲載を単行本化。
表題作ほか3編が収録された作品集。
表題作と続編である「小田切孝の言い分」を“究極の純愛小説”と呼べるのかどうかの疑問は残るものの、今まで読んだ絲山作品の中で、一番好き好き!!
読む前に
「収録されている3編のうち、「アーリオ オーリオ」がスゴクいい」
と聞いていたけど、どうしてどうして。
3編とも同じぐらい良かった…いんや。
表題作とその続編のが私にはものすごく好みだったと、言い切ってしまおう。
どーしようもないろくでなしの男への想いを綴る恋文のような「袋小路の男」。
「あなた」と二人称を使い、恋愛対象として自分を見てくれない男を、
あたかもアポロンに恋するひまわりのように、
ただひたすら慕い、見つめるだけの私。
慕う側の立場の弱さゆえか、一方的に男に振り回されて、
単なる都合の良い女とされているかのようで…
でも、近づきすぎず遠すぎずの微妙な距離感を保ったままの微妙な関係に
主人公と一緒に、一喜一憂していたように思う。
続く「小田切孝の言い分」では、「袋小路の男」では見えてこなかった
一方的に慕われる側だった男の心中も明かされて。
「ぢつは…」の部分、奇妙な腐れ縁の内実が明かされるのが
まったくもって心憎いのだ。
“恋人未満家族以上”の二人の間には、セックスはない。
セックスなんかしなくても、お互いが互いにとっての一番の理解者であり、
一番近くにいる大切な存在である、そんな関係。
もしかしたら究極の男と女の友情の物語なんじゃないかしらん。
ラストシーンに思わずにんまり&心がぽっと温かくなった私である(*^^*)。
(作中で「あなたは好きな人と一夜を共にして別れるか、
何もないまま毎日会い続けるか」こんな心理テストが引用されるのだけど、
主人公から見た二人の関係は、まさしく後者。
私だったら。うーん。両方!と云いたいけど…やっぱり後者を選んじゃうかも)
お待たせしましたの最後の「アーリオ オーリオ」。
3編まとめての連作集なのかと思ったら、この作品だけ別箇のお話でした。
孤独(孤高?)な男と、彼と同類のような姪っ子との心の交流のお話。
プラネタリウムやら星やらを配し、メールではなく文通が出てくるなんて、
「とても正統な純文学作品だなー」が、私にとっての第一印象。
正直p.138ぐらいまでは、さほどいいとは思わなかったけれど、後半、
主人公の内面がじわじわ滲み出てくるように描写されるようになってくると
「お!お!お!」次第に主人公に惹きつけられていくのだ。
星が好きで朴訥で、生きることに不器用で孤独でもの静かな主人公の日常を
ほんの一時波立てた、姪っ子との交感、、、。
じんわりと胸にしみいるかのよう(*^^*)。
主人公はきっと何年経ってもこのままのような気がするけど、
これから先、一人で孤独を抱えたままの姪っ子はどうなったんだろう、、、。
思わず想いを馳せてしまった、余韻が残るラストも素敵(*^^*)。
これで未読の絲山作品は、最新作『逃亡くそたわけ』のみ。
この作品も、早く読みたいな〜♪